プログラム
『話』らしい話のない小説

僕は『話』らしい話のない小説を最上のものとは思っていない。しかしかう云う小説も存在し得ると思ふ。
『話』らしい話のない小説は勿論唯身辺雑事を描いただけの小説ではない。それはあらゆる小説中、最も詩に近い小説である。しかも散文詩などと呼ばれるものよりもはるかに小説に近いものである。
―というより、この作品は短すぎて未完成かと疑はれるくらいである。しかし、未完成と呼ばれてゐるセザンヌの画さへ未完成かどうか多少の疑ひなきを得ない。